「月の心」を育む祈り

「月」は自ら光を発するものではなく、太陽の光を受けてひそやかに輝く存在です。それゆえ、「月」は、太陽のような存在だと見なされてきました。しかし、それだけではありません。「月」の光の静かさ。その透明さ。その光は何とやさしく、そして神秘的に降り注いでいることでしょう。「月」は自らが発光しないことを知っており、自らを鏡のようにして太陽の光を私たちに送ってくれます。それは回向返照。自ら修めた功徳(善行)を他のために巡らす回向の営みそのものです。
神秘の気配に満ちた「月」の光は、私たち一人ひとりを世界の不思議、人生の不思議に誘ってくれます。私たちの心は、普段は見えないもの、隠れた側面に自然に導かれます。見えるものから見えないところで他のために尽くす陰徳の歩みへと私たちを誘うものです。見えないところで他を支え、見えないところで全体のために尽くす歩みの尊さに私たちを導いてゆくのです。
「月の心」とは、隣人をひそやかに陰で支えることができる。陰徳の心の菩提心。
その「月の心」があなたの内に息づいていることを想ってください。
(祈りの言葉)
わたくしは、見えるものだけでなく、見えないものを想う者になります。形だけでなく、形を支える次元を求める者になります。現れだけでなく、隠れたところで心を尽くす者になります。
どうか、その歩みを支えてください。わたくしは、「月」のごとき隠徳の心を育みます。忍土の闇をひそやかに照らし続けることができますように。わたくしの内なる「月の心」をあらわしてください。
「祈りの道(高橋佳子著)」より