遺産分割協議が調わない場合

相続人等の間での遺産分割協議が成立しないときは、家庭裁判所に対して遺産分割の調停を申し立て、調停でも話し合いがまとまらず調停が不成立となったときは審判手続きが開始されます。なお、相続税の申告期限までに遺産分割が成立しない場合は、「未分割」として申告し、各相続人が法定相続分どおりに取得したものとして計算した相続税額を申告期限までに納付します。
図表1-6-2 遺産分割協議が調わない場合の手続きフローチャート
相続税の申告期限までに遺産分割が調わない場合、配偶者に対する相続税額の軽減(相法19の2)、小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例(措法69の4)、特定計画山林についての相続税の課税価格の計算の特例(措法69の5)、  特定事業用資産についての相続税の課税価格の計算の特例(旧措法69の5)のような相続税の税額軽減の特例や課税価額の計算の特例のほか納税猶予、物納といった納税に関する特例が適用できません。

意思無能力者がいる場合の遺産分割

意思能力を有しない者がした法律行為は無効となります(民法3の2)。
例えば、認知症を患って行為の結果を判断することができないほど認知症の程度がひどくなってしまった者は、意思能力を有しないと言えます。遺産分割も法律行為ですので、その者の行った遺産分割は無効となります。
この場合、家庭裁判所に後見開始の申立てを行い、成年後見人を選任してもらい、成年後見人が本人に代わり遺産分割に参加して意思表示することで遺産分割を成立させることができます。
なお、事実を隠して遺産分割協議書を作成した場合には、遺産分割の無効だけでなく、私文書偽造及び同行使(刑法159、161)に問われる可能性があります。
一般的には、10歳未満の幼児や重い精神病や認知症にある者には、意思能力がないとされています。

【参考法令】
民法3の2 法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。

遺産分割のやり直しについて

民法上は、「共同相続人の全員が、既に成立している遺産分割協議の全部又は一部を合意により解除した上、改めて分割協議をすることは、法律上、当然には妨げられるものではない。」(最判平成2年9月27日民集44巻6号995頁)として遺産分割のやり直しができることになっていますが、税法上では、「当初の分割により共同相続人又は包括受遺者に分属した財産を分割のやり直しとして再配分した場合には、その再配分により取得した財産は、同項に規定する分割により取得したものとはならないのであるから留意する。」(相基通19の2-8)として、無効原因の伴わない単純な遺産分割協議のやり直しをした場合については、相続人が取得した遺産の贈与であるとなっており、贈与税が課税されますので注意が必要です。

【参考法令】
相基通19の2-8(分割の意義) 法第19条の2第2項に規定する「分割」とは、相続開始後において相続又は包括遺贈により取得した財産を現実に共同相続人又は包括受遺者に分属させることをいい、その分割の方法が現物分割、代償分割若しくは換価分割であるか、またその分割の手続が協議、調停若しくは審判による分割であるかを問わないのであるから留意する。
ただし、当初の分割により共同相続人又は包括受遺者に分属した財産を分割のやり直しとして再配分した場合には、その再配分により取得した財産は、同項に規定する分割により取得したものとはならないのであるから留意する。(昭47直資2-130追加、昭50直資2-257、平6課資2-114改正)

法定相続分とは

相続分とは、相続人が有する相続産に対する割合をいい、法定相続分は、民法が定める相続分(民法900、901)をいいます。被相続人は、この割合を指定できますが(民法902)、相続人全員が合意すれば、異なる割合により相続財産を分割しても問題ありません。
この法定相続分は順位者の種類に応じて、次のとおりに定められています。

最高裁平成28年12月19日により、預貯金債権が遺産分割の対象とされることとなった.

相続人の生活費・相続債務の弁済・葬儀費用等の支払のため、法改正により、次のような遺産分割前の預貯金の払い戻しを認める制度が設けられた。なお、施行日は2019年7月1日から
① 裁判所の判断を経ずに預貯金の払戻しを認める制度(民法909条の2)
② 裁判所の判断(仮処分決定)の下で預貯金の仮払を認める制度(家事事件手続法200条3項)

 

職務発明等に係る報奨金等の所得区分について

  1. (問)
    電気メーカー会社に勤める者Xが開発した新型燃料電池が、特許を取得した。
    この新型燃料電池は、勤務の一環としてXが研究・開発したものであり、特許権は社内規定により勤務先の電気メーカーが承継している。特許権の承継に際し、Xは勤務先の電気メーカーより「出願報奨金」として、3万円の支払いを受けている。その後、この新型燃料電池が販売され、電気メーカーに莫大な収益をもたらすこととなった。このため、Xは、電気メーカーより「実績報奨金」として更に8,200万円の現金の支払いを受けた。「出願報奨金」、「実績報奨金」は、所得税上どう取り扱うべきか。
    (回答)
    発明者が有する職務発明などの特許権等につき対価を受ける権利(以下「対価請求権」という。)については、各法令上、雇用契約等の存在を支払いの前提としておらず、また、民法466条《債権の譲渡性》に基づき、譲渡可能とされていることから、雇用契約等を前提とした給与等とするのは相当でないと考えられ、したがって、使用人等の発明等に係る報奨金等については、所得税基本通達において次のとおり取り扱うこととされている。
    1業務上有益な発明、考案又は創作をした者が当該発明、考案又は創作に係る特許を受ける権利、実用新案登録を受ける権利若しくは意匠登録を受ける権利又は特許権、実用新案権若しくは意匠権を使用者に承継させたことにより支払いを受けるもので、これらの権利の承継に際し一時に支払いを受けるものは譲渡所得、これらの権利を承継させた後において支払いを受けるものは雑所得に区分される(所基通23~35共-1(1))。
    2事務若しくは作業の合理化、製品の品質の改善又は経費の節約等に寄与する工夫、考案等(特許又は実用新案登録若しくは意匠登録を受けるに至らないものに限る。)をした者が支払いを受けるものは、その工夫、考案等が、その者の通常の職務内の行為である場合には給与所得、その他の場合には一時所得(その工夫、考案等の実施後の成績等に応じ、継続的に支払いを受けるときは雑所得)に区分される(所基通23~35共-1(3))。
    所得区分の判断に当たっては、受け取った報酬の性質が、上記のいずれに該当するものであるか、個々に判断する必要があるものの、一般的には、特許権を承継することでXが支払いを受けた報酬3万円については、上記1の「権利の承継に際し一時に支払いを受けるもの」に当たると解される。
    よって、Xが支払いを受けた「出願報奨金」は譲渡所得に該当する。
    ※この譲渡所得は、所得税法施行令第82条に規定する「自己の研究の成果である特許権」の譲渡に準じ、総合課税の長期譲渡所得として取り扱うのが相当であると解される。

セルフメディケーション税制のスタート

平成29年1月から、従来の医療費控除の特例として期間限定で(平成33年12月末まで)、「セルフメディケーション税制」が施行されています。
この制度は、健康の維持増進及び疾病の予防への一定の取組※1をしている個人が、特定成分を含んだスイッチOTC医薬品※2を購入することにより、所得税や住民税の控除が受けられる制度です。
具体的には、その年中に支払ったスイッチOTC医薬品の購入の対価が、1万2千円を超えるときは、その超える部分の金額(その金額が8万8千円を超える場合には、8万8千円が限度)について、その年分の総所得金額等から控除することとなります。
なお、この制度は、今までの医療費控除とは選択適用となりますので、どちらか有利な制度を選択することとなり、一旦この制度を選択して確定申告書を提出した場合には、その後において納税者が更正の請求をし、又は修正申告書を提出する場合において、セルフメディケーション税制から従来の医療費控除への適用を変更することはできませんので、注意が必要です。

※1 特定健康診査、予防接種、定期健康診断、健康診査、がん検診
※2 要指導医薬品及び一般医薬品のうち、医療用から転用された医薬品

配当所得とは

配当所得とは、株主や出資者が法人から受ける配当や投資信託(公社債投資信託及び公募公社債等運用投資信託以外のもの)及び特定目的信託の収益の分配などの所得をいいます(法24①)。
配当所得は、申告の要否、株式等の区分、源泉徴収税率や税目(所得税、地方税)により次のように分類されます。なお、上場株式等の配当所得(発行済株式総数の3%以上を保有する株主を除きます。)については、確定申告することを選択した場合、総合課税のほかに、申告分離課税を選択することができます。また、この申告分離課税の選択は、申告する上場株式等の配当等に係る配当所得の全額についてしなければならないこととされ、申告分離課税を適用した上場株式等の配当等に係る配当所得については、配当控除は適用されません(措法8の4)。

「源泉徴収ありの特定口座」のメリット、デメリット

「源泉徴収ありの特定口座」のメリット
① 証券会社が源泉徴収口座内の上場株式等の譲渡所得や配当所得の年間の損益を計算して「年間取引報告書」「特定口座年間取引報告書」を作成してくれる。
② 源泉徴収口座内の上場株式等の譲渡所得や配当所得の税金の計算をして源泉徴収(納付)してくれるので確定申告が不要。
③ 申告不要を選択した場合、その口座内で生じた上場株式等の譲渡所得、配当所得の金額及び利子所得の金額については合計所得金額に算入されないので、所得控除の適用要件や国民健康保険の保険料、医療費の窓口負担割合などに影響しない。
④ 特定口座内の国内の上場株式等だけが、特定管理株式等の価値喪失による「みなし譲渡損失の特例」を適用することができる(源泉徴収なしの特定口座も適用可能)。

「源泉徴収ありの特定口座」のデメリット
① 源泉徴収口座以外の口座や他の証券会社の損益と損益通算するには申告が必要。
② 源泉徴収口座の譲渡損失の繰越控除を利用するためには申告が必要。
また、源泉徴収口座の譲渡損失を申告する場合、その源泉徴収口座内の株式等の配当金所得の金額及び利子所得に金額をすべて申告しなければならない。
③ 上場株式の配当金の受取り方法を「株式数比例配分方式」(図表2-10-2参照)に設定していないと、特定口座内で上場株式の配当金を受け取ることができない※。
④ 上場株式等の配当金等は、原則として、1回に支払を受けるごと(銘柄別の支払時期ごと)に確定申告・申告不要の選択をすることができるが、特定口座に受け入れた上場株式等の配当金等については、特定口座ごとに確定申告するかしないかの選択をしなければならない(譲渡損失を申告する場合はすべて申告(上記②参照))。
⑤ 特定口座の株式等の譲渡日は「受渡日」が基準となるので「約定日」を選択することができない(年末における「益出し」「損出し」の調整期間が短くなる。)。
⑥ 特定口座の取得価額については、同一銘柄を同一日に売買した場合、「売」と「買」の実際の順序に関係なく、先にすべての「買」が行われ、その後にすべての「売」がされたものとして処理される(「クロス取引」で「益出し」「損出し」ができない。)。
⑦ 特定口座の「源泉徴収あり・なし」の変更は、毎年最初に上場株式等の譲渡をする時までにできるが、前年に「源泉徴収あり」を選択していた場合で、本年最初に上場株式等の譲渡をする時より前にその特定口座に上場株式等の配当金等を受け入れていたときは、変更することはできない。