先世の結縁

或(あるい)は一(いっ)国(こく)に生(うま)れ、或(あるい)は一郡(いちぐん)に住(す)み、或(あるい)は一県(いちけん)に処(お)り、或(あるい)は一村(いっそん)に処(お)り、一樹(いちじゅ)の下(もと)に宿(やど)り、一河(いちが)の流(ながれ)を汲(く)み、一夜(いちや)の同宿(どうしゅく)、一日(いちにち)の夫婦(ふうふ)、一所(いっしょ)の聴聞(ちょうもん)、暫時(ざんじ)の同道(どうどう)、半時(はんじ)の戯笑(げしょう)、一言(いちげん)の会釈(えしゃく)、一坐(いちざ)の飲酒(おんしゅ)、同杯(どうはい)同酒(どうしゅ)、
一時(いちじ)の同車(どうしゃ)、同畳同坐(どうじょうどうざ)、同牀一臥(どうしょういちが)、軽重(けいちょう)異(ことな)るあるも、親疏(しんそ)別(べつ)有(あ)るも、皆(みな)是(これ)れ先世(せんぜ)の結縁(けちえん)なり。
(聖徳太子「説法(せっぽう)明眼論(みょうげんろん)」)
(訳)
ある国に生まれ、ある地方に住み、ある県に住み、ある村に住み、同じ木の下での雨宿り、同じ河の水を使い、一夜の同宿、一日だけの夫婦関係、同じところで話を聴き、ほんの短い同伴、ちょっとした微笑み、何気ないご挨拶、宴席での飲酒、たまたまの同車、同席、同宿、これらのことは関係が深い、薄い、親しい、疎いと様々であるが、全て、生まれる前の前世の因縁が関係しているのです。